2008年10月24日

因果関係肯定、安全配慮義務否定−小児科医過労死判決(東京高裁)

小児科医死亡「過労と自殺、関係」 高裁、賠償は認めず:2008.10.22 asahi.com
http://www.asahi.com/national/update/1022/TKY200810220188.html

判決は、一審・東京地裁判決の認定を改め、中原医師がうつ病を発症して99年8月に死亡したことと、当時の業務が過重だったこととの間に因果関係があったと認めた。一方で、健康状態に対する配慮などの注意義務を怠ったとはいえないと結論づけた。…

中原医師の死亡と業務との因果関係をめぐっては、別の訴訟で東京地裁が07年3月に労災を認め、判決が確定している。…


うつ病発症で小児科医自殺、2審も病院側の過失否定:2008.10.22 読売
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20081022-OYT1T00658.htm

「過重な業務だと認めながら、病院に責任はないという判決は、私には理解できない」。中原医師の妻、のり子さん(52)は判決後、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見した。…



●Q1.過労とうつの因果関係が認められている裁判例の間でも、過失有無(「予見できたかどうか」)で判断が分かれるのはなぜか。

●Q2.労災認定と安全配慮義務違反(→損害賠償請求権が生じる)の認定は、どこが違うか。



:自分なりのA

●A1.記事と先行判例(電通事件)をみるかぎり、ここが違うようです。

電通事件(最2小判 H12.3.24) →判決本文

・(上司の)指揮又は命令の下にその遂行に当たっていた(本文p3 1〜5行目)

・上司は労働者の健康状態が悪化していることに気付いていながら…業務の量等を適切に調整するための措置を採らなかった(本文p3 7〜13行目)


◇今回

・当直の割り振りは中原さんが担当していたことから「過重性はある程度自分の意思で解消できた」と判断。(2008.10.22 時事

・無断欠勤もなく、精神障害を起こす恐れは予見できなかったとした。(2008.10.22 時事

 中原医師が業務を問題なく処理していたことから、「病院側がうつ病の発症に気付かなかったのも、やむを得ない」と判断した(2008.10.22 読売

 中原医師が病院側に相談しなかったから、病院は異変を認識できなかったなどとして、遺族側の主張を退けた。 (2008.10.22 asahi.com


●A2. 労災 … 業務と疾病の因果関係 があれば認定

  安全配慮義務違反
    … 業務と疾病の因果関係 × 故意過失(→予見可能性) が必要


上記のとおりだとすると

・「裁量性(働き方を自分で決められる)があると、安全配慮義務違反が認められにくい」

・「責任感が強くて、弱音をはかない(表面に出さない)」人ほど
安全配慮義務違反が認められにくい」

ということになります。


上告有無(→司法判断が変わりうる)・各種コメントなど、動向を注視していこうと思います。


■上記の「自分で申告しないと安全配慮義務が認められにくい」という問題を避けるために、面接指導の制度(労働安全衛生法第66条の8,第66条の9,第104条)をつくったのかな?

とすると、たとえば2007年に同様の過労自殺が発生し、同じ法廷が判断した場合、結論が異なる可能性はありますね。
(ただし、面接指導の制度も「労働者の申出を受けて」となっており、これが問題視されていました)


■医師の当直が、緊張のある業務にもかかわらず41条の「適用除外」とされている という「構造的問題」があるようです。

医師の過労死を防ぐために:2008.10.23 CBNews

…当直については、労基法41条が労働者の健康状態への配慮を定め、厚労省の通達(2002年3月)も「当直とは、常態としてほとんど労働する必要がない勤務」と規定している。
 しかし、[シンポジウムで]この小児科医は「実際の当直は、こういうものとは全くかけ離れた勤務を一人でやっている状況で、通常よりも何倍も負担が掛かるような(常態化した)労働だ。当直では、夕方5時から翌朝9時の16時間は、いくら働いても勤務にカウントされない。従って代休もないし、そのまま通常勤務に突入する。もちろん、まとまった睡眠時間は取れない」と語り、その過重性を見直す必要性を強調した。

 控訴審判決では、当直など中原さんの業務を過重とし、うつ病との因果関係も明確に認めた。ところが、労基法が求める労働者の健康状態への配慮を無視した当直業務の可能性を指摘しながら、病院側の「安全配慮義務違反」については否定した。

 判決後の記者会見で、主任弁護人の川人博さんは「これでは、使用者が労働者に過重な労働を強いたとしても、何の賠償責任も問われないことになり、過重労働を放置しかねない」と批判。労働問題の専門家で関西大経済学部教授の森岡孝二さんも「司法は医療現場の実態を認識していない」と疑問を投げ掛ける。



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posted by 若葉 at 22:23| Comment(4) | TrackBack(0) | 安全衛生・労災 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ブロポチです。最近お忙しいようですね。更新頻度が以前より間が開くようになってきました。 わたしもですが^^
Posted by DJヒロ at 2008年10月31日 18:13
どうもです(めちゃくちゃ遅い)m(_ _)m

1週間で急に冬になりましたね。
これ以上寒くなったら、なにを着よう(^^;
Posted by 若葉 at 2008年11月23日 01:10
興味深い考察ですね。
>当直の割り振りは中原さんが担当していたことから「過重性はある程度自分の意思で解消できた」と判断。

これに関しては、普通の言葉で書けば、勝手に無理して働いて、勝手に病気になっても誰にも責任がない、との判断ですね。

ただし、その当直の振り分けを見た中原さんの上司は、中原さんのシフトを把握していたのか?
把握していないと仮定すれば、安全配慮義務を怠ったことにならないか?
把握していたと仮定すれば、明らかな過重労働の場合は安全配慮義務違反にならないか?
医師の適用除外は、憲法や民法に反しないか?

「労災否定でも、何らかの直接的な民法上の違反を誰かがしていないか?」

ということを考えました。
Posted by まさ@茨木 at 2008年11月24日 09:00
コメントありがとうございます
(遅くなりましたm(_ _)m)

>勝手に無理して働いて、勝手に病気になっても誰にも責任がない

そのとおりです。

>労災否定でも、何らかの直接的な民法上の違反

法廷で訴えたら、労基法違反の判決は出ると思います。
(行政が「医師の当直が41条にあたる」と言っているわけではありません)

正式に判断すれば違反であることを誰もがわかっていながら、誰も訴えないという構造?があるように思います。
Posted by 若葉 at 2008年12月31日 04:30
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